旅ゴコロ~熊本県~
  ※料金や営業時間等は紙面掲載時

(2018/2/25掲載)

“幻の一杯”求めて

阿蘇・高森町「新酒とふるさとの味まつり」

 水と米に恵まれた熊本県高森町にある1762年創業の山村酒造は、阿蘇のカルデラ内唯一の酒蔵だ。ここで造られる「霊山新酒」を味わえるのは、「新酒とふるさとの味まつり」が開かれる2月11日から3月11日の1か月間のみ。しかも町外不出のため、高森町でしか飲むことはできない。「幻の一杯」を求めて、足を運んでみた。 加藤 博之

熊本県高森町 山村酒造 新酒とふるさとの味まつり
30回目を迎えた「新酒とふるさとの味まつり」は高森町の恒例行事だ

町外不出の「生酒」味わえるのはこの時期だけ

 キリリとして、すっきりとした飲み口。それでいて、しっかりとした日本酒そのものの「うまみ」が感じられる。一口飲んで思わず、「おいしい」と声に出していた。これなら何杯でも飲めそうだ。

 

 今年30回目を迎えた「新酒とふるさとの味まつり」。11日のオープニングセレモニーは、「今年の新酒はどんな出来だろう」という期待と、解禁日の高揚感で、にぎわいを見せていた。非加熱の生酒のため、持ち帰り用の販売はなく、高森町の飲食店でしか味わえないとあって、町外からも多くの人が楽しみに訪れていた。

 

 おいしい酒が生まれるには、米と水はもちろん、その土地の気候も大きな要素だ。「厳しい冬、涼しい夏が大事」と話すのは、山村酒造の13代目当主の山村唯夫さん(65)。そしてもう一つ大切なのが人だ。連綿と受け継がれてきた技術、知恵、経験が、毎年この季節に味わえる一杯に凝縮されているのだろう。

熊本県高森町 山村酒造
酒造りは「チームワークが大事」と話す当主の山村唯夫さん(左)と杜氏で長男の純平さん

今年の出来に自信

 現在、杜氏(とうじ)は、唯夫さんの長男・純平さん(36)が務めている。酒造りは体力勝負。「酒は麹(こうじ)、酵母が造ってくれますから。大事なのはそれをサポートする人。手を抜かないようにとやっています」。丹念に造った酒をたくさんの人に「おいしい」と言ってもらえることが、何よりの喜びだ。

 

 「新酒」は秋の季語だと教えてもらった。春に田植えをし、実りの秋を迎える。そして酒造りは10月にスタートする。農家や杜氏の手間と思いが重なって、新たな一杯が生まれるのだ。「今年は冬が寒く、いい出来ですよ。ぜひ高森町に飲みに来てください」と、唯夫さんはうなずいた。

 

 今回は「田楽」や「ふ菜やき」など、この地域ならではの「食」も合わせて堪能した。阿蘇の水、米、気候が生んだ「霊山新酒」とともに、大地の恵みを実感することが出来た。

山村酒造の霊山新酒
山村酒造の霊山新酒

【新酒とふるさとの味まつり】

 今年の新酒まつりには、300ミリ・リットルの「霊山新酒」が5000~6000本用意されている。期間中は様々な催しがあり、町内の飲食店や宿泊施設などで味わえる。3月11日には、「ラストイベント」(午前11時~午後3時)が町内の観光交流センターで開かれる。樽酒のふるまいや郷土料理の実演販売などが行われる。(問)高森町観光協会0967-62-2233

 

【さけかすさんぽ】

 3月11日まで。山村酒造で出来る絞りたての酒粕(さけかす)を使って、町内の15店舗がオリジナルの商品を販売するイベント。「阿蘇山チーズの粕漬」(徳丸漬物)、さけかすプリンなどが付いた休暇村南阿蘇の「さけすランチ」が人気。スタンプラリーも行われており、「新酒まつり」と合わせて楽しみたい。



(2017/11/16掲載)

神秘の自然に癒やされて

上色見熊野座神社 穿戸岩 阿蘇
上色見熊野座神社の「穿戸岩」。阿蘇の自然の力が感じられるスポットだ

阿蘇・高森町を巡る旅~2017秋

 8月の長陽大橋ルートに続き、10月には南阿蘇登山道も開通。昨年4月の熊本地震から、にぎわいを取り戻しつつある阿蘇地域をめぐる旅。今週は秋の行楽シーズンを迎えた高森町の魅力を紹介する。最近注目を集めているパワースポットを訪れ、伝統料理に舌鼓。根子岳を望む大自然を満喫した。 加藤 博之

阿蘇道路状況 2017年11月9日現在
※道路状況は2017年11月9日現在

根子岳 高森町
角度や時刻によって、違った姿を見せる根子岳。高森町の象徴として地元の人に愛されている

澄み切った空気に心和む鳥のさえずり

 遠くにシカの鳴き声が響いた。阿蘇を訪れるなら、日帰りよりも、泊まりでの旅行を薦める。何より、朝がすばらしいからだ。澄み切った空気を、胸いっぱいに吸い込む。あちらこちらから聞こえる鳥のさえずりに、心が和んだ。

 

 今回の宿泊は、高森町にある休暇村南阿蘇。雄大な根子岳が目の前に迫るロケーションが人気だ。早起きして、すぐそばの「阿蘇野草園」を散策した。ここにはハナシノブといった貴重な草花のほか、200種以上の野鳥や、オオルリシジミといった珍しいチョウなどが数多く生息している。40分ほど歩いた後に露天風呂につかり、地元の食材をふんだんに使った朝食を堪能した。

 

 この日は、車で5分くらいのところに、SNSなどで最近注目を浴びているスポットがあると聞いて、訪ねてみた。上色見熊野座(かみしきみくまのいます)神社は、地元の人には「ごんげんさん」と呼ばれ、親しまれている。参道の石段を上り、神殿を過ぎてさらに進むと、大きな岩が目の前に現れた。なるほど確かに、どこか神秘的な雰囲気が漂う。

 

 この岩は「穿戸(うげと)岩」と呼ばれている。むきだしの自然は、その圧倒的な力と、大きな時の流れを感じさせてくれた。岩の間からのぞく景色が鮮やかだ。背中からの風が、解き放たれるように、その景色の中へ抜けていった。

 

水と空気、そして景色

 休暇村南阿蘇の富永羊一朗支配人は、阿蘇・高森の魅力について「水と空気、そして景色は最高です」と胸を張る。その象徴である根子岳は滞在中、見る角度や時間帯によって刻々とその表情を変え、楽しませてくれた。「また、ここを訪れたい」。新たな魅力を来るたびに発見できるから、人は何度もこの地を訪れるのだろう。

 

【休暇村南阿蘇】

 阿蘇の四季折々の自然が満喫できる宿泊施設。天然温泉「しきみの湯」からは、根子岳が一望できる。地元の食材を使った郷土料理「阿蘇の味覚バイキング」は田楽やだご汁、色見の漬物などが味わえる。部屋中に「くまモン」をあしらったコンセプトルームも人気。高森町高森3219(問)0967-62-2100

高森湧水トンネル公園

高森湧水トンネル公園

 阿蘇南鉄道の高森駅の南側、徒歩10分のところにある。トンネルの長さは約2キロで、そのうち550メートルが一般公開されている。阿蘇地域の水の豊かさが実感できる。開園時間は4~10月が午前9時から午後6時、11~3月が午前9時から午後5時。入園料は中学生以上300円、小学生100円。未就学児無料。(問)高森町観光協会0967-622233

 

高森田楽

囲炉裏で味わう高森の郷土料理

【高森田楽保存会】

 根子岳を望む、築150年近い風情のある建物で、郷土料理を堪能できるお店。「高森田楽コース」(1890円)は、串に刺した、特産のツルノコイモや、ヤマメ、豆腐、こんにゃくなどを、囲炉裏にくべた炭で焼いて食べる。3年寝かせたミソは、まろやかで、絶妙の味わい。食材のうまみをさらに引き立ててくれる。じんわりと焼けるのを待つ間、会話が弾むのも、昔ながらのこの食べ方の魅力だ。高森町上色見2639(問)0967-62-0234



(2017/11/9掲載)

阿蘇のにぎわい 徐々に

阿蘇 草千里 2017年秋
南登山道の開通で、にぎわいを取り戻しつつある草千里

阿蘇の旅~2017秋(上)

 昨年4月の熊本地震から約1年半。世界最大級のカルデラが人気の観光地・阿蘇も大きな被害を受けた。通行止めとなっていた道路は徐々に開通し、客足は少しずつ戻ってきている。自然災害で激減した観光客を呼び戻すのもまた、人を引きつけてやまない大自然なのだろう。秋の行楽シーズンを迎えた同地域を訪ねた。2週にわたって紹介する。 加藤 博之

阿蘇道路状況 2017年11月9日紙面掲載時
※道路状況は2017年11月9日、紙面掲載時

「阿蘇登山道路」2ルート通行可能に

 草千里をのどかな秋風が渡っていった。緑と青空のコントラストが映える。阿蘇の雄大な自然は、被災前と何ら変わりなく、優しく迎え入れてくれた。家族連れやカップルが笑い合いながら景色を楽しんでいる。秋の行楽シーズンを迎え、一時は激減した観光客もようやく戻りつつあるようだ。

 

 今回の旅は、熊本市方面から県道57号線を東へ進み、8月に開通した長陽大橋ルートを通って、南阿蘇村に入った。阿蘇五岳を左手に見ながら進み、10月4日に開通したばかりの阿蘇南登山道(吉田線)県道111号を通って中岳火口近くの草千里に着いた。

 

 「阿蘇火山博物館」は草千里を一望できるところにある。熊本地震で甚大な被害を受け、ようやく10月1日に全面オープンした。被災直後は壁が崩れ、床に亀裂が入り、映像設備が壊れた。「再開は無理かな」という状況からここまでこぎ着けた。同館の岡田誠治常務理事によると「観光客のにぎわいは、まだ最盛期の3割から4割」という。それでも「私たちが元気を出さないと、観光客の方にも来てもらえない」と話し、道路の開通に期待を寄せている。

 

来春は火口見学も

 これで阿蘇登山道路3ルートのうち、2ルートの通行が可能となった。来春には自主規制が続く火口見学も再開される見通しだ。崩れた山肌や、補修工事を行っているところも多く見られた。それでも今回、改めて実感したのは、自然の豊かさ。これだけ人を引きつけるものがある限り、必ず客足は戻ってくるはず。その兆しを、確かに感じることができた。

     ◇

 次週(11月16日)は、パワースポットとして注目を集めている「上色見熊野座神社」や、伝統料理の「高森田楽」など、阿蘇・高森町の魅力を紹介する。

南阿蘇鉄道 マンガよせがきトレイン

 

「マンガよせがきトレイン」運行中

 南阿蘇鉄道では「がんばれクマモト! マンガよせがきトレイン」を、高森―中松間で運行している=写真=。被災地を勇気づけようと、117人の漫画家や原作者が応援イラストを寄せた。平日が1往復、土日祝日は2往復で、11月30日まで。(問)南阿蘇鉄道0967-62-0058

 

 

「復興マーケット桜咲」8店が営業中 南阿蘇村

 南阿蘇村にある「復興マーケット桜咲」では、被災した8店舗が営業している。炭火焼き肉「陽氣茶屋」の井上興国さん(72)、雅子さん(71)夫妻=写真=は、地震で店舗が全壊。仮設住宅に暮らしながら、ここで営業を再開した。「以前と同じ生活を取り戻すのは難しい。前のお店に来てくれていたお客さんが心配して遠方から訪ねてくれることもあります。うれしくて涙出ますね」と話す。プレハブの店舗からは、復興はまだまだ途上にあることを感じさせられた。