特集【この人キラリ】

(2020/1/6紙面掲載)

木下サーカス 高原 謙慈さん

笑顔と感動届けて

 子供たちに大人気のサーカス。極限まで磨き上げた技の数々は驚きにあふれ、見る者を魅了してやまない。創立117年を迎えた木下サーカスの高原謙慈さん(43)は、この道に入って25年目。オートバイショーのリーダーや空中ブランコの演技指導など、様々な役を一人でこなす。その練達ぶりはまさにプロフェッショナル。感動と笑いを届け全国を旅する、その素顔とは。公演中の福岡市舞鶴公園の大テントを訪ねた。 (加藤 博之)

オートバイショーではリーダーを務める
オートバイショーではリーダーを務める

あふれるライブ感

 ダイナミックな技が決まるたびに、歓声と拍手が静寂を打ち破る。「おぉ!」。驚きの声が上がり、次の技に移ろうとした瞬間、全員が一斉に息をのむ。ハラハラ、ドキドキの連続。その熱気からも、観客の感情がダイレクトに刺激されているのが分かる。このライブ感こそが最高の味わいだ。

 

 オートバイショーの演技を終え、高原さんが声援に応えている。「練習を積み重ねて、演技を見てもらう。その成果を歓声という形で直接受け取ることが出来る。それがこの仕事の一番の魅力です」。会場にあふれている笑顔を見てまた、元気をもらう。天職だなと、自分でもつくづく思う。

 

 導かれるように、この道に入った。25年前。高校を2年で中退し、当時とび職として大阪で働いていた。よく晴れた気持ちのいい4月のある日。バイクでツーリングに出かけた。いつものコースは通行止めで、仕方なく回り道した。偶然、赤い屋根の大テントが目に留まった。

 

関西出身らしく、ユーモアを交えて半生を振り返ってくれた
関西出身らしく、ユーモアを交えて半生を振り返ってくれた

導かれるように

 吸い寄せられるように中へ入った。初めて見るサーカスに、一気に魅了されていた。その年の1月、阪神淡路大震災があった。仕事で連日、被災地へ通っていた。目を覆いたくなる惨状とはあまりに対照的な、笑いや感動にあふれた舞台。そのコントラストに、強烈に心が揺さぶられた。

 

 「団員募集」の看板を見つけ、すぐに電話。面接でとび職であることや、中学2年まで器械体操を習っていたこと。運送屋でフォークリフトを扱った経験がある話をした。「いつから来れるんだ?」。採用担当者の方が身を乗り出していた。

 

 怖いもの知らずの性格も向いていた。夢中で練習を重ね、次々と技を習得。空中ブランコのフライヤーや、7つの椅子を積み上げその上でパフォーマンスする「セブンチェアズショー」など、様々な演目に挑戦した。実力主義の世界。出番も増え、給料も上がった。

 

 何度も辞めようと

 挫折もあった。26歳の時に5メートルの高さから転落し両足を粉砕骨折した。しばらくは何度もその場面が夢に出てきて苦しんだ。2年前はオートバイショーの本番中にエンジンが停止。7メートルの高さから落ちた。「何度も辞めようと思ったことはある」。だが、舞台にずっと立ち続けてきた。何よりサーカスが好きだったから。

 

空中ブランコの演技指導も行う。ステージ中は両端にある高さ13メートルのジャンプ台でサポート役をになう
空中ブランコの演技指導も行う。ステージ中は両端にある高さ13メートルのジャンプ台でサポート役をになう

尽きぬ向上心 いまだ途上

 「これからも、少しでも心にとどめてもらえるような芸人でありたい」。体力的な衰えはあるが、向上心は尽きない。今も細部にまでこだわって、演技の質を高めている。完成形はない。途上にいる時だけ、進化し続けることが出来るからだ。

 

 演技の前に行う儀式がある。オートバイにまたがり、すっと目を閉じる。「集中して、無になるんです」。目を開けた先には、スポットライトに照らされた舞台が待っている。観客席に満ちた期待を、ありありと感じることができる。アクセルを入れ、光の中へ--。

  さあ、開演だ。


【世紀のオートバイショー】

 直径7メートル、総重量2.3トンの鉄製の球体「バイクホール」の内側を3台のバイクが駆け回る。ギリギリのところですれ違う様子は見ていてハラハラする。赤、黄、緑の3色の光が疾走し、迫力満点の爆音が鳴り響く。

 

 演技は「生き物」。同じように見えても、毎日少しずつ違う。危険と隣り合わせだけに、瞬時の判断はもちろん、仲間との信頼関係が求められる。


高原 謙慈(たかはら・けんじ) 1976年、大阪生まれ。楽しみは公演地のおいしいものを食べること。福岡では5年前の公演時に見つけたラーメン屋がお気に入り。家族と一緒に移動し、大テントに隣接するコンテナで生活する。「快適ですよ。職場も近いですし」と笑う。1日の公演が終わると、家族で大濠公園をランニング。夜は夫婦で韓流ドラマを見ることに、はまっている。休演日は家族サービスデーにあてる良きパパ。それで自分も癒やされる。妻と二男。

福岡公演 3月8日まで

【会場】福岡市中央区 舞鶴公園三ノ丸広場特設会場

【日程】3月8日まで。毎木曜と1月22日、2月5、19日は休演

【公演時間】約2時間10分(休憩20分)。月・火・水・土曜=①午前11時②午後1時40分、金曜=①午後1時②午後3時40分、土曜=①午前11時②午後1時40分、日曜・祝日=①午前10時10分②午後1時③午後3時40分

【入場料金】大人2900円、3歳~中学生1900円。当日券は各400円増し。指定席は別途料金が必要。ローソンチケット、チケットぴあなど

【問い合わせ】公演事務局092-718-0333 >木下サーカス公式サイト