【わんにゃんリポート】北九州周辺のミニチュアダックスフント遺棄事件 「多頭飼育崩壊」が浮き彫りに

 北九州市とその周辺の市町でミニチュアダックスフントが相次いで保護された事件で、同市の40歳代の夫婦が動物愛護法違反(遺棄)の疑いで福岡県警に逮捕されました。事件の背景には、ペットが増えすぎて適切な世話ができなくなる「多頭飼育崩壊」がありました。(松永 康弘)

北九州市動物愛護センターに保護されたミニチュアダックスフント

容疑者夫婦にそれぞれ罰金20万円の略式命令

 夫婦は今年7月12日から14日までの間、北九州市戸畑区や宗像市などの公園、空き地に計27匹の飼い犬を遺棄したとして略式起訴され、小倉簡裁からそれぞれ罰金20万円の略式命令を受けました。2人とも容疑を認めたそうです。

 北九州市などでは今年5~8月、ミニチュアダックスフント計57匹が遺棄されているのが見つかり、保護した県と同市は同じ飼い主が捨てた疑いがあるとして県警に情報を提供していました。

繁殖繰り返し50匹以上を飼育

 県警によると、夫婦は2Kの古い自宅アパートで50匹以上を飼育していましたが、「50匹くらい捨てた」と供述しており、逮捕時には1匹だけ自宅に残されていました。妻が独身時代にアパートに住み始めた2004年頃の飼育は1匹でしたが、結婚後の07年頃に1匹増え、さらに新たに購入した犬が繁殖を繰り返し、徐々に増えていったそうです。

 「犬がほえる声や排せつ物の臭いに対して、近所から苦情があり、夫と相談して捨てました」。妻は逮捕前の調べに、そのように話したそうです。あまりにも身勝手な犯行で、捨てられた犬たちのことを思うとやり切れません。

飼い主は責任と自覚を

 この事件について、県警は繁殖目的ではなく、「多頭飼育崩壊」との見方を示しました。なぜ、犬が徐々に増えていく前に繁殖を止めなかったのでしょうか。多頭飼育をするのであれば、なぜ、飼い主の責任を果たせる環境を整えなかったのでしょうか。経済的な問題などがあるかも知れませんが、疑問は尽きません。

 環境省は昨年3月、「多頭飼育崩壊」についての自治体向けの対策ガイドライン(指針)をまとめました。指針では動物愛護や社会福祉に関わる自治体の担当部署と警察などが連携したうえで、自治体職員らが①飼い主の生活②動物の飼育状況③近所など周辺の生活環境--を把握して対応するよう求めています。

 福岡市動物愛護管理センターによると、昨年度は多頭飼育の相談が17件あり、近所からの苦情に関する内容が多かったそうです。同センターの吉柳善弘所長は「オスは去勢、メスには避妊することがポイント。飼い主には責任と自覚が求められますが、予防には地域の目も必要です」と指摘しています。

保護された犬は新しい飼い主に譲渡された(北九州市動物愛護センターで)

保護された全57匹は新しい飼い主の元へ

 遺棄が見つかった際には全国ニュースになり、保護した自治体には「捨てられた犬を引き取って飼いたい」という希望が次々に寄せられました。

 今回の事件で県が27匹、北九州市が21匹、警察などが9匹を保護しましたが、その57匹すべてが希望者に譲渡されています。譲渡に力を尽くした北九州市動物愛護センターの稲冨秀敏所長は「引き取られた犬たちはきっと、幸せになってくれるでしょう」とホッとした表情を見せました。

 譲渡先は九州全域と西日本地区の愛好家で、遠くから泊まりがけで訪れた夫婦もいたそうです。遺棄された犬たちは不幸な目に遭いましたが、心ある飼い主の元で新たな暮らしを始めたことが救いです。

 犬や猫を捨てることはどんな理由があっても犯罪です。今回の事件で浮き彫りになった「多頭飼育崩壊」。トイプードルなど4匹を育てている記者も、終身飼育の責任の重さを改めて痛感しました。

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 愛犬家の記者が最新のペット事情を探る「わんにゃんリポート」は随時、掲載します。

(2022/10/29Web限定公開)

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