【競輪】これぞ職人技 手書きで描く開催告知看板/別府競輪場

勝利を描くのは、何色だ?

全長14m 看板作りに密着

 別府競輪のG3「開設71周年記念・オランダ王国友好杯」は5日から4日間にわたって開催される。今年のG1を制している松浦悠士と郡司浩平を筆頭に、守沢太志、浅井康太、諸橋愛、村上博幸らの実力者、気鋭の山口拳矢や九州勢は北津留翼らが熱戦を繰り広げる。今シリーズのキャッチフレーズは「勝利を描くのは、何色だ?」。選手たちが描く激闘ドラマに期待が集まるが、レースとともに注目してほしいのが別府競輪場の外壁に掲げられた開催告知の看板。全国的にも珍しい手書きで描く看板作りに密着した。

県道642号沿いの開催告知看板。イラスト以外は手書きで描かれている

創業50年超 福田看板店

 これぞ職人の技だ。別府競輪場の西側、県道642号沿いの外壁に掲げられた看板。全長14メートルの巨大な板には場外発売を行う各地のグレードレース競走名や日程が描かれている。時には複数の色が使われていたり、何重ものグラデーションになった精細なデザインも。一見、最新技術で印字されたように見えるがイラスト以外の文字部分は全て手書きで作られているのだ。

 5月半ばのある晴れた日の朝。筆やペンキを持った2人の職人が颯爽(さっそう)と競輪場にやってきた。地元亀川にある創業50年以上の老舗・福田看板店3代目代表の福田義康さんと父で先代の義金さん。到着してすぐ今シリーズを告知する看板作りに取りかかった。

 作業はまずトレーシングペーパーに印字された文字を鉛筆でなぞっていく。「開設71周年記念G3」「オランダ王国友好杯」。白く塗りつぶされた板に一つひとつの文字を写していく。次にベタ塗り。義康さんがハケを使い、ライトグレーのペンキで文字の周囲を塗る。同時進行で義金さんが筆で文字を描く。

白く塗りつぶされたベニヤ板の上にトレーシングペーパーを使って文字を写していく

40年以上のこだわり「技術を残さないと」

 「ほとんどの仕事はインクジェット。手書きはここだけですね」と義康さん。インクジェットで印刷したシートを貼り付ける看板が主流の中、競輪場の開催告知看板は40年以上にわたり手書きで行っている。「インクジェットだと費用が倍かかるのもあるけど、技術的なものを残さなければいけないという部分もありますね」。そう言いながら淡々と作業を進める。

ベタ塗りと文字描きを同時進行で行っていく

あうんの呼吸

 作業中の二人に会話はない。ただ黙々と筆を動かすだけだ。義康さんが家業を手伝い始めてから15年。どちらがどの部分を塗るかはあうんの呼吸で決まるという。

手書きの良さは「温かさ」と話す義康さん

ポスターデザインを忠実に再現

 看板のデザインは毎回異なる。競輪場から送られてきたポスターのデザインを見て「できるだけ忠実に再現します」と義康さん。今回の競走名ロゴは黒一色のシンプルなデザインだが、王国の「王」の文字はオランダにちなんだ風車のマークになっている。羽根の部分は細い線が重なっているがこれも手書き。細い筆で丁寧に直線を描く。

 作業開始からおよそ6時間。風車が描かれ、下部をオレンジ色に塗ってオランダをイメージできる看板ができあがった。義康さんが「終わりました」とさわやかな笑顔を見せれば、義金さんも「100点」と笑った。

風車の羽根を丁寧に描く義金さん。職人技の筆さばきだ

オランダ王国友好杯最終日の8日まで設置

 「競輪に行ったことはないけど看板を見るのが楽しみと言ってくれる人もいる」。開催告知だけではなく、一つの作品として地元の人たちから親しまれている手書きの看板。ただどんな力作も開催が終わればすぐに白く塗りつぶす。そして何日か後にはまた新たな競走の告知に変わる。その繰り返しだ。

 今回制作した看板はシリーズ最終日の8日まで設置。また手書きではないがバンク内側の巨大看板も福田看板店が制作した。場外発売所やネット中継で観戦するファンには、レースを陰で支える裏方さんたちの思いも忘れないでほしい。

作業開始から6時間。全長14メートルの巨大看板が完成した

(2021/6/4紙面掲載)

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別府競輪の男達 番外編「筆先にココロ込める男達」 県道642号線沿い 別府競輪場 開催告知看板を描く男達 福田看板店 手書き看板のこだわりと技術をご覧あれ!

別府競輪動画


別府競輪 オランダ王国友好杯(外部リンク)

【競輪】なぜ、オランダなのか? (2019/11/29紙面掲載)

https://www.seibuhochi.com/keirin/beppu/2019beppukinen.html

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